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「Richard Sapper」

リチャード・サパー(Richard Sapper1932-2015)

「イタリアデザインの素晴らしさ」を詳しく調べていくと、それはイタリア全体の影に隠れて、数人の優れたデザイナーの作品の印象だったりするが、まさにその一人がサパーだろう。

(※出身国ドイツの発音とイタリア、または英語で異なり、リヒャルド・ザッパーとする場合がある。)
しかし、サパーはイタリア人ではなくドイツ人で、ミュンヘンの出身である。
ミュンヘン大学の工学部を卒業すると、一九五六年、デザイナーとしてシュットゥガルドのダイムラー・ベンツ社に就職する。
しかし、たった2年で退社、イタリアに移住してジオ・ポンティ(建築誌ドムス創刊や椅子スーパーレジェーラのデザインで有名)のポンティ・ロッセリ建築事務所に勤務するが、ここも一年で退職し、一九五九年にマルコ・ザヌーソ(Marco Zanuso)事務所にて共同作業をはじめる。
そして、ここで一九四五年創業の電機メーカー、ブリオンヴェガ(BRIONVEGA)の仕事をすることになり、世界から注目されます。
その最初のデザインがポータブルテレビ・アルゴル(algol)。ブラウン管のサイズは10インチと小型ながら、六十年代のテレビとは思えないシャープなデザインで、その造形に対する並外れたセンスが伺える。
続いて、コンパクト・ラジオTS22も脚光を浴びた。最初は閉じた箱の形だが、真ん中から開くと、片方にはスピーカー、もう片方にはダイヤルが付いていて、使う時と使わない時の工夫に感嘆してしまう。これは、そもそもダイムラー・ベンツとIBMのプレミアムとして生産し、後に同社の製品になっている。
一九七二年にミュンヘンに戻り、ザヌーソとのコラボレーションは解消される。その最初の作品となったのが、デスクライトの傑作、アルテミデ(Artemide)社のTIZIO(ティチオ)。ローボルト・ハロゲン球を使った全体の構成は、電気コードが無くされており、任意の位置に自由に動くヘッドのデザインとあいまって、モダンデザイン・オフィスの必須アイテムとなっている超ロングセラーである。
次にキッチンウェア・メーカーでモダンデザイン路線に変更したアレッシ(ALESSI)社のデザインに力を注ぐ。一九七九年に発表したエスプレッソ・メーカー9090はあまりにも大胆で丹精なフォルムで驚かせ、今日においても生産が続いている。
八十年代に入って完成したのがホイッスル・ケトル。ドイツのシュヴァルツヴァルト地方の伝統的な真鍮製の笛をそのままホイッスルとしてデザインに取り込み、本体は宇宙船のようなピカピカに磨かれたステンレスとブラックに仕上げられた取手との対比が見事なハーモニーとなって、冷たい金属の集合体とは思えないデザインとなっている。
その後、サパーは大型コンピュータからバソコン生産に軸足を移しつつあったIBMの顧問デザイナーとして活躍するが、結果的にドイツ、イタリア、フランス、アメリカとそれぞれの国に合った傑作数々を残している希有なプロダクトデザイナーだったと言えるたろう。
出身地ミュンヘンは南ドイツであり、気風もイタリアに近かったことが幸いしていたのかも知れない。




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