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「Arne Emil Jacobsen」




アルネ・ヤコブセン(Arne Emil Jacobsen 1902年-1971年)

近代プロダクトデザインを最初に完成したのは誰か。この大いに興味深いテーマに対して、アルネ・ヤコブセンは一番近い存在の一人として認知されている。もちろん、バウハウスやチャールズ・レイ・イームズ、レイモンド・ローウィの名前が上がるのは当然だが、その完成度や多義的活動を見ると、ヤコブセンの存在が俄然輝き出す。
ここで忘れてならないのは、ヤコブセンは建築家であるということで、氏の場合はあくまで建築設計の派生としてプロダクトデザインを手掛けているので、建築家でありながらプロダクトデザインの受注が多い、イタリアのタイプとは違うことを知っておかなければならない。
ヤコブセンは普通より少し遅く、22才の時にデンマーク王立芸術アカデミーに入学、その建築を学んでいる。1927年に卒業し、29年に独立して事務所を構える、順調な仕事ぶりをこなす。すでに最初の頃から建築の名作を残しているが、同時に木製椅子も制作しているが、これはこの時期、ハンス・ウェグナーが所員だったので、ウェグナーが手掛けた、という説が有力である。ところが、ドイツでナチスが台頭し、デンマークにも侵攻して来ると、ユダヤ人だったヤコブセンはスウェーデンに逃れてしまうが、1944年に帰国、戦後復興のための建築を数多く手掛けるが、その七年後、早くもヤコブセンの名を世界に轟かせる画期的な椅子が誕生する。アントチェア(1952年)である。
そのきっかけとなったのはある会社の社員食堂のデザインを依頼されたことで、その内容の中に「軽くて、スタッキング出来る椅子」が必要だった。製作について相談をもちかけたフリッツ・ハンセン社で試行錯誤を繰り返し、世界初となる背と座面が一体となった、くびれを持つモダン・チェアが誕生する。その後、多くのバリエーションが開発され、発表されているが、何と言っても1955年に完成した「セブンチェア」は、その後の椅子の代名詞にさえなった世紀のベストセラーである。
次に大きな動きがあったのはロイヤルホテルの設計である。ここでは勿論、建築設計だけでは満足出来ず、家具や照明、ドアノブからカトラリーまで徹底してデザインして行く。ここで開発されたものはAJシリーズという名称が付き、命名されている。そのAJが付かないが、この中から誕生した名作がエッグチェア(THE EGG)である。
ロビーで使用されるためにデザインされた形は、僅かに座る人のプライバシーに配慮された「顔が隠れる」ように上端がラウンドしていて、その結果、卵をえぐり取ったような独特なものとなっている。
これと似たような事例に、ヤコブセン最後の大きな仕事となったデンマーク王立銀行(1969年)がある。この中で最も衝撃的なものとなったのは洗面所に取り付けられた水栓金具だった。後にVOLAシリーズと命名されたシリースは、全て基本形がシリンダー(筒)になっており、端正さを極めたようなデザインとして、あらゆる業界の商品に影響を与えた。

こうして、そうそうたる作品を残したが、ヤコブセンの代表作品を選ぶ候補にステルトン社の「シリンダー・ライン」を外すことは出来ない。再婚相手の息子からの依頼で始まったステンレスの卓上用品シリーズは、ヤコブセンのデザインを製造可能なように、製作機械まで新規に開発し、成し遂げられました。1967年に完成した製品は、モダンデザインの最高峰として評価され、現代に至っている。




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